今回は、もう少し馴染みやすいトピックスで攻めます。それほどコアなマニアの方でなくとも、名前はご存知かと思います。Flibbertigibbet「Whistling Jigs To The Moon」

多くのレビューには、フリッバーティギベットなどと表記されることが多いのですが、ネイティブに近い発音は以下のようです。
フリバティジーベット
「フリバティ」まで一気に発音し、その後、「ジー」に一番アクセントを置くと、かなり、それっぽく聞こえます。さぁ、みなさん、ご一緒に!
「フリバティ」「ジー!!」「ベット」
言わずもがなですが、メロキャン解散後に、ヴォーカルの一人であるアリソン嬢がメンバーかつ恋人のデイヴィッド・ウィリアムズと南アに渡って結成したバンドです。発見当時は「メロキャンのセカンドか!」と話題になりました。前回に引続いて、音の純粋なレビューは割愛させていただきますが、本家本元の複雑な音楽性が希薄なため、メロキャンのセカンドと言うには若干無理があると感じますが、シンプルかつハートウォーミングなトラッド&フォークは大変に魅力的です。ジャケの何とも言えない、影絵作家の藤城清治を素朴にしたようなイラストが絶妙にマッチしています。音だけ聞くなら、再発CDの流通は、まだ良好です。
日本におけるメロキャン「Swaddling Songs」のCD再発は89年のエディソン版が最初ですが、次の再発はクローダー・シモンズ書下ろしライナーノーツ付きで、ユニバーサルから94年に出されています。このライナーノーツからの受け売りですが(逆に、これしか情報がない)、メロキャンの実質的なリーダーはクローダーで、彼女自身は音楽に関して正に「才能の塊」であり、加えて、世俗的な野心も旺盛だったようです。このライナーノーツの中では、解散後のNY時代に接点があったマドンナに並々ならぬ敵愾心をぶつけていたりして(笑)、なかなかタフなおばちゃんぶりを発揮してくれています(爆)
当初の音楽活動は、同じアイルランド出身で同年代(みな10代半ば)のアリソン・ブール(後にオドンネル)、マリア・ホワイトと共に憧れのスープリームスを目指していたようですが、メジャー志向の大衆路線であった筈なのに、結果的に似ても似つかない方向に進むことになりました。アルバム発表前のシングル「Feeling High」を聞くと、時代の影響も強いのでしょうが、R&B、アシッド、サイケ、初期プログレのごった煮であり、今後の方向性について色々と試行錯誤していたのだろうと思われます。後述しますが、トラッド&フォーク風味はアリソンから、プログレ風味はクローダーから持ち込まれて、メロキャンの音楽性が作られていったような気がします。
なお、デビッド・ヒッチコックのプロデュースが入る前の、正にメロキャン本来の「素」の姿が「The Virgin Prophet」(Kissing Spell、CDはまだ入手しやすいがLPは既にプレミアムがついているようです)で聞くことが出来るのですが、驚くことにこれがもう、形の上ではほぼ、アルバムの完成形になっていて、かつ、疾走感溢れ、肉体感ゴリゴリのパフォーマンスになっています。年齢を考えると天才としか表現のしようがありません。一方で「Swaddling Songs」にあったプログレ風味は、まだ希薄です。トラッド&フォーク路線の延長上に、どこかアートっぽくミスティックなプログレの感覚が感じられるのは、デビッド・ヒッチコックの影響を否定できないでしょう。ただし、それが①ヒッチコックが意図的に持ち込んだものか、②クローダーが元々持っていた(が、まだ開花していないステージだった、もしくは、バンド当初の勢いに隠れてThe Virgin Prophetには現われていなかった)ものをヒッチコックが巧く引き出したのか、は今となっては何とも分かりません。後にクローダーが97年に発表した、日本独自企画のミニ・アルバム「バンシー・ボイス Six Elementary Songs」を聞くと、②が彼女の本質かなとは思うのですが、メロキャンの日本での人気(89年、94年とCD再発)を考慮して、ヒッチコックから学んだものをフル活用して日本向け作品を作ったのではないか、とも想像してしまいます(ちなみにプロデューサーはトム・ニューマン)。彼女は、メロキャン解散後はシン・リジー(アイルランドつながりでしょうね)やマイク・オールドフィールド(オマドーン)など色々な人と仕事をし、NYへ渡って様々な経験を積んだ、歴戦の「プロフェッショナル」なのです。彼女なら、アルバムの「風味付け」など、容易に出来てしまうでしょう。ただ、最近ではバンド活動やイーノのアルバムへの参加など、現代音楽路線を歩んでいるようで、この方向性は彼女の得意とするものになっていることは確かです。
(Feeling High)

(Swaddling Songs)

(The Virgin Prophet)

(バンシー・ボイス Six Elementary Songs)

メロキャン解散の背景には、我々ファンからは計り知れないものがあると思いますが、普通に考えて、自信があった割りに商業的な成功が得られなかったことが、先ず挙げられるでしょうね。上昇志向の強いクローダーのことですから、方向転換して「Swaddling Songs」とは異なる路線を進むのであれば、バンドから離れるのは必然だったと思われます。現在に至るまで、アリソンが同傾向のトラッド&フォーク作品を継続的に発表しているのを見ると(Flibbertigibbetを含む)、結果的に二人が別々の道を歩む事になったことは十分に納得できます。逆に言えば、メロキャン解散のおかげで、我々はアリソンのほっこりする作品群を楽しめる、とも言えるでしょう。
(例えば、アリソンの最新作)

プロフェッショナルとしてあまりに我の強いクローダーのせいで、アリソン自身の音楽性に踏み込む余地が少ないのが淋しいところではあるのですが、やはり明確に言えるのは、クローダーだけでも、アリソンだけでも、「Swaddling Songs」は作れなかったと言う事です。二つの個性があって初めて、あの高みに到達したのだと思います。その意味でもFlibbertigibbetをメロキャンのセカンドと言うのは間違いであり、このアルバムは、アリソンのトラッドをベースとした音楽性と穏やかで可愛い個性を楽しむためのものだと言えるでしょう。
最後は「もの」の話題です。筆者はメロキャンのシングル「Feeling High」、LP「Swaddling Songs」、更にはFlibbertigibbetの入手に際して「ゆうらしあ」さんからひとかたならぬお世話になりましたが、やはり、南アフリカ盤は見かけること自体が難しいものがあります。そもそも南アフリカのアーティストと言っても、プログレ界隈ではすぐに尽きてしまう。マンフレッド・マン、ダンカン・マッケイくらい?後は、渡英してVertigoやOgunなどでアルバムを出しているジャズ系の人たちでしょうか…筆者はキース・ティペットのファンを自認しており、ジャズ系の南ア・ミュージシャンについてはある程度、土地勘がある方だとは思うのですが、それでも手にするのは英国盤や欧州盤ばかりで、南アフリカ盤を見ることはありません。
それと、南アフリカ盤に限らない話しですが、ブツが一度アメリカに渡ってしまうとドリルホールを空けられたり、ジャケに落書きされたり、シャレにならないケースが発生することが、まま、あります。筆者が長年探している盤で今、とあるサイトで出品されているものがあるのですが、ドリルホールがある上に、ジャケ表に堂々と「15¢」とマジックで太く大きく書かれていて、本当に腹が立ちます。実際に二足三文で売られていたのでしょうねぇ。それでも、売値が15¢なら喜んで買うのですが(…)、レア度に応じたそれなりの値段がついているので、精神衛生上、本当に良くないです。価格設定は仕入れ値の関係でしょうから、当該サイトの責任でないのは理解した上で、一消費者としては「何てことだ!」と言う感じです…
ちなみに、このジャンルには別途、「Candle Factory」と言う有名なレア盤があるのですが、Mellow Candleとは一切関係がないと思われます。地味な音作りなのに有名、と言うか、値段が張るのは、レア度もさることながら、バンド名に拠るところが大きいのではないか、と推測されます。あ、ちなみに女性vol.は入ってます。筆者がサラリーマンを引退して、おじ(い)さんバンドをやることになったら、偉大なる先達にあやかって、バンド名は「Mellow Candle Factory」にしたいなぁ、と思っています。
(これが紛らわしいCandle Factory)

